なか寒うございます、頭がしーんとなる位ね。
 今のわたしは珍しい納り工合で、これをかいて居ります、二階でね、坐っているのは例のとおり例の机です。こう冷たくては堅い木がむき出しではたまらないから、机かけでもかけた方が落付ける。でも程いいのもない、厚くて、ものをのせたり書いたりしてずらないようなのは。ああ、昔父がロンドンでつかったオリーブ色のぼったりした野暮くさいテーブルかけがあったっけが、どうしたかしら。虫くいかしら、あれならいいが。こんなこと考え考えしているの。そして、更に更に珍しいことには、机の横に火鉢というものが出ていて、その中に火というものがあるの、びっくりなさるでしょう? どうしてこんなに自分をもてなしているかというとね、或はお客があるかもしれなかったのでした。古本やさんをやっていて河出につとめたTさんという人が、今度徴用になって立川につとめます。出征ではないけれども、字ばかりひねって四十になった人が、キカイを習うというのは、やはり改った事と思って細君と赤ちゃん一緒によびました、赤ちゃんが人工営養で、ゆっくり出来ないと云っているうちに公衆電話がきれてしまったの、五銭きりもってい
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