何年かすぎるのですが、さてそれからふたの開いた時が見ものというも余りありでしょう。もとのような意味や形で、作家でございと云ったところでああそうですか、でしょう、この頃は。横光利一はもう二度と大学生の神様にはなれません。作家気質がふっとばされて、銀座界隈、浅草あたり、亀戸新宿辺から消散し、さてその先はいかがでしょう。大したことです。何人の古参兵がのこるでしょう。高見順は日本の製靴業の歴史みたいなものを研究している由です。西村勝三[自注5]という先達者が西村伯翁の弟で、古田中夫人の父です。この間「白藤」かいたこと申しましたろう? そしたら良人が大変よろこんで礼をよこし、西村勝三にもふれているのが面白いし、高見順をよんで子供たちが父の話をきくことになっているとか云ってよこしました。高見順の方向は愚劣でないが、その靴と日清・日露がどうからみ、且つ今の当主西村直は大金持だが、そういう昔話の集りなどには出ても来ないし、よびもしない。おっかさんは廃嫡して谷口となっている息子の方へ暮しているというような現実の面白さまでを、どう靴からくみとるでしょうね。「白藤」へは、性質上かきませんでしたが、母が話した
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