ないわけには行かなかったわけです、こういう生活の根本的破壊は、奥さんが、えらくなったから、思い上っているからだそうです。何度も何度もそういう意見でした。私は全く反対に考えていますから何とも云えない次第です。そういう考えかたからここまで崩れたと思い、私は作家の道のおそろしさを切実に感じました。不器用な足どりに満腔の感謝を覚え、謹でわれらの日を祝しました。ブランカのよたよたした四つ肢だけであったなら、果してどこ迄雪の凍った道が歩けたでしょう、その雪の下にだけかたい地面がある道を。郭沫若という作家の紀行に、夜営して第一の日、柔かい草をよろこんで眠ったら翌日体がきかないほど湿気をうけ、石の堅いところに臥た老兵は体がしゃんとしていた、とありました。ハハアと思ったことを思いおこしました。あの当時ぼっとしてあなたに叱られた位でしたが、この頃は自分の心もしゃんと自分の中にあり、自分の勉強についての確信、生活についての確信がいくらかあって、五時間きき疲れたけれども、気分は乱れませんでした。そして、やはり或る距離はちぢめられません。
わたしはね、この頃、その人たち夫婦の間で、自分がどんな調子で話されるだ
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