「誇と偏見」二冊、「デビッドの生立」三冊、モンテスキュー「随想」(?)、「テス」(一冊)、メレディスの「エゴイスト」二冊その他、是非これで読まなくてはというものもないわけです。そう思って帰って来て、重い袋かかえて門入ろうとしたら、往来で遊んでいた太郎が「おかえんなさい」とよって来て、「写真メン買っていい? 向日葵の種買うのに五十銭もらったのをやめたから」というの。「写真メンて何なの」「メンコノ写真の。ね、いい?」「誰にお金もらったの」「台所にあずけてあるの貰ったの」「一ついくら」「一つ三銭」「五つ買っていい?」「いい」と云おうとしているところへ、「こんにちは」ひょいと帽子ぬぐ男みたら戸塚の御主人です。マア、何てきょうはおかしい日だろう、さすが防空演習でさわいだ丈あると、何となしこれも苦笑に近い気持がしました。総てのことについて私が全く局外におかれていたということは何とよかったでしょう、五時間(八時まで)縷々綿々として、些末な描写にうむことない話をききました。きいたけれども私に何一つ出来ることはない。「それはそうでしょう? 何も分らないように暮したのだから、この二三年……」其は合点合点し
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