閉口して居ります、帰ると小包作りだわ。ハア何年ぶりだっぺなア、うちの嫁っ子がまだ来《キ》ねえうちだったない、というようなわけなの。
飛行練習にお盆休みのあるということはうれしゅうございます。きょうはこの眩ゆい空に浮ぶのは夏の白雲ばかりよ。遑しい世紀の羽音はしずまって、村人はお花をもって墓詣りをします。盆踊りも三日間はするそうです。ここの村では太鼓をのせる櫓がこわれたから駄目なんだそうです。きのうの夕方、何里か先の村の太鼓の音が、ちょっときこえました。じいさんの市郎という爺の代から三代目のつき合をしている正一という鉱夫出の農夫が、いかにも都市周辺の現代農民の諸性格をそなえていて、特徴的です。日露戦争のとき捕虜になったことのある別の爺さんも、わたしを夕立のときおぶってかけて帰ったというような縁で、この男と女房と養子との守勢的打算生活の態度も特徴的です。時代に揉まれる農家の人々が、そこを棹さしてゆく、おどろくべき頭の働かせかた、二十年昔の開墾村は、今日全く抜目ない市外農村です。配給野菜で都市生活のものが、どういうものを食わされるかということが沁々とわかりました。リンゴ一貫目十二円五十銭の公
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