定だそうです。三四十粒かかるのだそうです。しかし食べられるものにするためには、三度消毒して、十八円かかるそうです、消毒剤の払底がひどい由。白菜を蒔きまき市次郎曰ク「ハア薬がなくて心配なこった」、わたしは、こっちの生垣の中から立ってそれを見ているのよ。そして、こんな話をするの「こっちじゃ立鍬を使わないんだね。それじゃいかにもハア腰が痛そうだ。」臥鍬の、ずっと柄のひくいので、二重《フタエ》になってやるのよ。「この辺の地質じゃ立鍬は、ハア駄目だね。みんなこれだね。立鍬なんか使ってると、のんきだって云われやす」
 けれども、来るとき感じたのは、東北の文化的向上とでもいうか、昔は宇都宮からは、乗客の空気も言葉も服装も全く違って一段と暗くなりました。こんど来てみると、全くそのちがいは消えていて、女の子の服装だって髪だって東京とちがいありません。ちがいは健康そうだ、という丈よ。駅の女の子にしろ同じ制服で。違うといえばアクセントぐらいのものよ。宇都宮から隣りにのった女の子はタイピスト学校に行っているのですって。宇都宮に二つあるのですって。うしろの座席には、芝浦の工場に徴用に行っている福島からの人が何人
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