は、君たちの友達だよ、いざというときはきっと味方する、と金持世界に帰ってしまうのよ。
この小説を読んで感じること、学ぶことは、ああいう国の個人が自分の生活を自分で持ち運んで動きまわれる範囲の縦横のひろさ、ということです。何でもない人が、何でもなく、何でもある経験をなし得るのだし、その何でもある経験から、自然に何でもない生活人にすらりと入れるという、そのひろさ、深さです。わたしたちの周囲では、何か一つの際立った経験があると、周囲はすぐその人を何でもない人にはしておかないし、御当人も何でもない者になり切れず小さくかたまってしまう傾向です。一粒一粒の個人の内容の大小がこうして異って来るのね。風に散りぬの作者だって、あの小説かいたきりもう書きませんと何でもない人になるのですものね。日本の女で、あの位の小説かいて、何でもなくているでしょうか。
きょうは、もう手紙かきをこれでやめて働き出します。寿の引越しにもたせてやるもの、たのむもの、まとめなくてはならないから。咲、国、まだ帰らないのよ。明日どうするのでしょう、いずれにせよ私は行けません。
夕方ごろ帰って来て、じゃあ行く、と云ったってお伴に
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