やかなテンポというか、味というか。富ちゃんはきっとこう書いてよ、「光陰矢の如しと云うとおり」と。隆ちゃんのよさ満々ですね。天性の規模は面白いものです。短い何気ない表現の中に一種の大さがあります。隆ちゃんにわたしのやる手紙、本、ついているのでしょうか、ついたという文句は一つもありませんでしたが、この半年ほど。こちらへは航空便来ません。そして、来ても、あの人らしく控えめで、気候のこと、元気に御奉公のことばかりしかかかないのよ。それはやはりあのひとらしい味に溢れて居りますが。
 達ちゃんも落付かないことでしょう。忙しく働いているでしょうね。
 週報のこと分りました。お金一年送ってあって、それは来年までよ、多分。
 この間古本屋でシンクレアの「石炭王」という小説を見つけました。大正の終りに枯川が訳したものです。金持の大学生が見学のため炭坑に入り、そこのひどい生活におどろいて良心を目ざまされ、不幸な人々のために一骨折るところですが、最後は妙なハッピエンドです。丁度水戸黄門道中記みたいに、どたん場で、大金持の息子という身分を明らかにして、暴力団のピストルを下げさせてしまいます。そして、働く人たちに
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