ころ、さっき落付いて中をよくのぞいたら変なことになって居ります、水があるのよ、わたしの入れたのはさとうなのに、うすよごれた水がカンの中にあるのよ。ちょんびり。さんざん眺めて、ああそうかと合点したって、もう手おくれです。当今の鑵を信じるうつけものと川柳にでもなりそうです。かん[#「かん」に傍点]は底のつぎ目がわるくて水を吸いこんでしまったのよ。水の中でどうして砂糖がとけずにいられましょう。とけて水となれば、砂糖包のアンペラの底からハタキ出された身の素姓をあからさまにして、うすきたならしい水になるしか仕方がなかった次第でしょう。そのうすよごれた水を、いさぎよくすてるなどとは、今日の神経のよくなす業でありませんから、わたくしは口で悪態をとなえつつ、丁寧にガラスの瓶へうつしました。
さて、三十日のお手紙にあった、野原へお母さんがいらっしゃったりするの、本当に結構です。お母さんが暫く家にいらっしゃらなかった間、お父さんが、外道奴、外道奴とお怒りになり乍ら活躍していらした、というような笑いと涙を誘う面白い話にしろ、野原の小母さんが話してですものね。それから、お祖母さんというお方は、大層姿のよい方
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