を云い乍らいそいでそこにあったダシをついで、こげつかないところだけとって、一寸煮直して小癪だから夕飯のとき半分たべてしまいました。わたしが小走りに七輪へかけつけ、唖然として且つあわてる様子御想像下さい。鰊は北の白熊に獲られるのね、きっと。やきもちやいて、東京へ出たら逆をやれと思って、自爆して、わたしという白熊を釣って駈け出させたのは手際とや申すべき。
もう一話があります。なかなか多事[#「多事」に傍点]だったのがお分りでしょう。「鑵今昔物語」というものです。砂糖の配給は、この頃〇・六斤が〇・五斤(一人)となって、月の中旬以後になりました。もと重治さんが「砂糖の話」という小説をかきました。さとうの話は、充満しているわけですが、うちの砂糖ののこりが、大事にカンにしまってありました。間違えてそのカンをあけたら(つまり間違える[#「間違える」に傍点]ぐらい、タマにしかあけないというわけ)これも亦どうでしょう。カンの中が蟻だらけなの。へえと思って、それをおはしでかきまわして、先ず蟻陣を混乱させ、カンだから小鉢に水を入れた真中に立てて、行くたんびに、カンカンとたたいて蟻を追い出していたつもりのと
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