ます。
わたしのような人間には、信じないで信じている、というような芸当はむずかしいのに。姉弟ですからどうにかもってはゆくけれども。
暗くならないうちに御飯たいておかないといけないのよ。ですからここまで。あしたもきっと書けそうね、今夜無事ならば。ゆうべ安眠出来たということのかげに、犠牲の大さを感じて粛然たるものがあります。ではね。
七月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
七月五日 つづき
夕飯を一人ですますことになったので、それに警報も解除となり明るくしてもいいのでお話をつづけます。
先ず、「鰊のやきもち」という話をいたします。さっき七輪に鍋をかけて、にしんを煮かけつつあっちの手紙をかいて居りました。間で決して放念していたわけではなく、この北の海でとられて、身をかかれて、かためられたのを又ぬか水に漬けられ、甘く辛くと煮られる魚の身の上を思い、折々みてやっていたのに、どうでしょう。いつの間にかわたしが書く方に熱中したとみる間に、じりじりに身をこがして、行ってみたときには、おつゆがからからであやうく苦くひりついてしまうところでした。マアどうでしょう、とひとり言
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