[#「化粧用」に傍点]より万一、もとのがあれば、その方が本来の性質と用途に添ったものですから。シャボンよ、シャボン、こまかい泡をきれいに立てて疲れをそっくりもって行け、よ。
 きのうお話した森長さんからのことづて。全く全く、というところですね。あの人がああというのではなく、誰も彼も。そして、こうも思いました。わたしが小説をかくということは、これでどうして大したことなのだ、と。テーマのない小説というものはないでしょう(かりにも小説と云えるものであるなら)テーマはいつも核をもっています。其こそ大事で、万事のうちにテーマとその核とを把握するということ、直感的に把握するということ、更に其を科学的探究で整理し、核がもつ本質を明瞭にしてゆこうとする情熱をもっていること、これは芸術的[#「芸術的」に傍点]と云うべきなのね。人生そのものへのくい入りかたの意味で、まさに芸術的なのね。
 一本人生のテーマが通っていて、それを生涯を通じて完成してゆこうとする人生態度の芸術性こそ、トルストイの知らなかった人生派の芸術だと面白く思います。芸術のきわまるところ、即ち生活そのものの創造的意義だということは実に面白い
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