頓着に育てられて丸く小さくなってしまったように、丸く小さいところがあるのよ、きっと。残念ね、骨の折れるだけも、ね。
 こんな小さい字もかくから、大分よくなっているようですが、寧ろこの頃は眼のわるさになれて、まがったペンを使いこなすように、悪妻を扱いこなすように、こなしはじめたのではないでしょうか、チラチラはひどいままなのですもの。眼とは面白いものね、顔全体出て見える眼はこわくなくて、せまいすき間から眼だけ見える眼というものは気味わるいし、おしゃれの女がその効果をつかって、ヴェールから目元だけ出すのも何とずるい技巧でしょう。わたしは出来たらこの眼をあなたに届けて、何とか工合を直して頂いて見たいようです、
 おなかぺこについて心痛いたします。もうお眠れになれたでしょうか。

 一月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

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道ばたにならび居る子ら喉をはり
  勢一杯にうたふ「予科練」

さむ風に総毛だちつつ片言の
  女の児まで声あはせ居り

けふはなほ正月七日風空に
  凧のうなりのなきが淋しき

風おちぬしづもる屋根に白白と
  雪おもしろく月さしのぼ
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