ユーゴーのこういうロマンティシズムを見ると、絵の方がまだましのようにさえ思います。そしてフローベルの出たのが分るわ。フローベルは、ユーゴーに立腹したのね、そして、「ボバリー夫人」をかいたのですね、そして、あのつまらない「サランボー」をかいたのだと思います。ユーゴーが曲芸風に腕をふるので、フローベルはむっとして下を向いて、俺の皿は素焼だそれで人間は食って生きているのだ、と力んだのね、フランスの自然主義の根は、ロマンティシズムの大さと比例して居ります。田山花袋の間口二間ほどのナチュラリズムは何と果敢《はか》なくて、無邪気で、無伝統でしょう。フランス文学、イギリス文学が明治の初めに入って来たということについては、地元の文学的うんちく[#「うんちく」に傍点]の歴史がよくよくかみこなされなければ、其の日本的風土化もつまりは分らないでしょう。バルザックの偉大さ、というより博大さ、は本当に歴史を理解する力によってでなければつかまれきれません、それはバルザックの博大さというよりも、むしろフランス史の博大さですから。バルザックの小説が私たち作家にとっての興味のポイントは、人間関係の状況と性格との関係にあ
前へ 次へ
全357ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング