直接には浮びません、更にあの山人たちが、どう思って外来者をうけ入れているかというようなこと、つまりあの事件の全性格はくっきりつかまれていないのです。時間の問題その他の関係もありますが。
 ユーゴーの「九十三年」という作品があり、殆どバルザックと同じ時代を扱っています、よみはじめたらユーゴーのロマンティシズムとはこうも有平糖でありスコットの亜流であるかとびっくりします。チェホフがね、ゴーリキイの若かったときこんな注意をしてやったのよ、君、君の小説では風が歌ったり波が囁いたりするね、しかし風は吹くのだよ、そして波はうちよせるのだ。自然は其で十分美しく立派なものだということを会得したまえ。ユーゴーがこう云われたら、何と返事していいでしょう、何故なら彼は美文の1/3は削ってしまわなくてはならないでしょう。おそろしい悪文ね、饒舌で冗漫です、そのくせ粗雑な描写です。このユーゴーの亜流がデュマであったというのがよく分ります。「ミゼラブル」が傑作であって、しかし家庭文庫の中に光るものであることが何と沁々わかるでしょう。こういう大家は文学の上では悲しいと思います。しかし大家よ、パルテノンに埋っています。
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