なりました、体もいくらかよくなって来ているのでしょうね、頭が動くところを見ると。こうして、そろそろと焦らないで、仕事が出来るようになるでしょう。
 そう云えばこの間原稿整理していて、祝い日のためにの詩ね、あれをくりかえしよみました、びっくりいたしました。あれは本当に、半ば盲の妻の作品ですね、そのひたすらなところ、思いこんだ調子、確乎さ、立派なところがなくはないが、何と流動性がないでしょう、可哀そうな一心さがあります、健康というものをおそろしく感じました。哀れと思っておよみ下すったのが、今になって自分でわかります、あのときは精一杯でそれは分りませんでしたが。ああいう凝りかたが直ったら、現金ね、わたしはもとの散文家になってしまって、しかし、目出度しです。あの詩はレンブラントの絵のような重い明暗があり、赤い一点の色彩が添えられて居ります。それにしても、本当に何と眼が見えないという感じ、手さぐりの感じ、周囲というもののない感じでしょう。よい記念品だと思います、あんなにわたしは苦しくて、見えなくて、じっと動けなかったのね、可哀想に。
 然し今は、青っぽい筒袖のセルを着て、紺の大前かけかけて、青葉
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