だと思ったのに、昨今ではその間に世間がまるで変って、私は色々なことで自分の間抜けを知ります。例えば四月の第一回の空襲を特別な条件で経験したということは、何か私のなかにセンスのかけたところをこしらえていて、土蔵などについてもとかく平面的に(火事という風に)考えて、天井からぶち抜く力があることを知っていて、つい知らないようなものの考え方をします。戸台さんが三十七歳で花婿になって赤ちゃんがやがて生れます。お祝いをあげるのに茶ダンスを考えて、私達にふさわしいけちなのが三十円もしたらあるだろうと思ったところ、ああちゃんやペンさんに一笑にふされてしまいました。そういう名のつくものは五十円以上で、タンスの極く悪いのが百五十円。二十三円でタンスが買えた時以来、私はタンスというものを買ったことがないから本当に驚きました。今は銘仙夜具が一揃えで二百円もする様です。何しろあんな格子縞のが表だけ三十円で、やっとそれもそこへ落付けたという次第です。常識の補給にこんな話も致します。栄さんが鷺の宮へ家を建てて十年年賦で一万数千円だそうですが、制限内の三十坪何合で家をみるとしゃくにさわるから、外をみていると景色はいい
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