で十一円だと定価まで言ったのに、今度は人が行って一日の分量を聞いたらば、誰一人その薬を知らず、本までみてないというのは実に奇妙です。電話ではユガマンと聞えるし、こちらでそういうと向うにも正しい名の発音として聞えるのでしょうが、妙ねえ。自分で用事がたせないと狐につままれたようなことがあります。電話は何故だか苦しくてかけられません。
 足袋カバーは修繕出来次第送ります。ジャケツは今年はごましお色のですが、灰色のは私の防空着に拝借致します。毛布のことは私としては泣きの涙よ。六月に寿江子に度々手紙でそちらの毛布を洗濯しないでよいかどうか念を押したのに、いいとおっしゃったということでした。今は世の中にシャボンが消えて、御用聞きがない時代だのに洗濯屋だけは争って二軒も三軒も入ってきて、持って行ったものは一ヵ月もかかって出来上る有様です。これからの毛布洗濯はかわかないし、きっと一ヵ月では寄越さないでしょう。寒い目を御覧になるでしょう。若しどうでもしなければならなければ、二枚続き一枚だけはいつかの虫食いを入れて下げて頂き、やりくりつくかも知れません。全くこれからの毛布洗いは苦労の種ね。
 何しろ十六日
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