からのお手紙の用事だからもうこれで一杯。十七日のことはどうしても別刷にしなければならない程珍らしい一日でしたから、ここで一休みしておやつをたべて、それから又ペンさんを酷使致しましょう。

 十月二十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

 十月二十七日
 さて愈※[#二の字点、1−2−22]《いよいよ》十七日の物語り。
 あの前後お休みが続いたので、父子が沓掛へ行こうと言っていたらば寒いのが厭というようなことで十七日になりました。あの日は雨でした。相当な降りで。これは私達の十七日にしては珍らしいことでした。食堂へ行ってみたら早朝にかかわらず、佐藤先生が一仕事終ったという顔でお茶をのんでいられます。「まあどうしたの?」と其処にいる御夫婦を見くらべたら、泰子が夜半からひきつけて大さわぎをしているのに、林町のかかりつけの小児科医は、医師会のピクニックで皆出払ってしまっていて、私の先生に電話したら子供は診ないということで、そこいらの医者を紹介され、その人が取りあえず注射して、佐藤先生にわざわざ来診願ったところというわけでした。
 去年の十月末ひきつけた話は申しあげましたね。
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