何と度々
 愛の誓いが反古になるのを
 目撃したろう。
 その醇朴さが
 却って ばつの悪いほど
 辱しめられるのをも眺めて来た。

 けれども
 幼い子供たちが その遊戯の天国で
 ぞっとするほど面白く
 泣き出したいほど うれしいのは
 何の魔力のゆえからか。

 秘密は唯一つ
 それは 幼な児の正直さ。
 遊戯の約束は決して破らない
 それの たまもの。

 単純きわまったこのことに
 妻なるわたしは
 幸福の天啓をよみとる。

 そうだ わたくしも
 約束はやぶるまい 決して。
 互を大切に いとしい者と思いあう
 この おのずからなる約束を。

 今宵も ひとり私は灯のそばに坐り
 ひとしお輝く光の輪につつまれる。
 やがて薔薇も匂いそめ
 単純な希いが
 たかまり
 凝って
 光とともに燃ゆるとき
 愛するひとよ
 御身の命も亦溢れ
 われら鍾愛の花の上へ
 燦然とふり注ごう。

  真白き紙の上に

 真白き紙を くり展《の》べて
 黒い字を書く めずらしさ。


 墨の香は秋の陽にしみ
 一字一字は 活溌な蜻蛉。


 古き東洋の文字たちは
 次から次へと
 ふき込まれ
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