る命の新しさに愕いて
 われと我が身を あやしみながら
 七彩にきらめき
 いとしきひとの かたへと飛ぶ。

  あしたのたのしみ

 たった これっぽっちを
 幾日もかかって
 紙に鼻すりつけて書く可哀そうな私
 半めくらの私。

 いつも一緒に暮している声が
 顔の近くで 斯う云う。
 「ユリ そんなによくばらず
 上書きだけは 明日のたのしみに
 とってお置き
 疲れた証拠に
 息が こちらへ 触れる程だよ」と。

 私はおとなしく うなずいて答える。
 「そうしましょう
 でもね
 誰が
 昔から
 胸の動悸をはやめずに
 愛したためしが あるでしょう」
[#地から8字上げ]一九四二年十月一日―十三日

[#ここから2字下げ]
[自注3]十三日――十月十七日、顕治の誕生日の祝いのために、半ば手さぐりで書いたはじめての自筆のたより。
[#ここで字下げ終わり]

 十月十五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

 十月十五日
 こんな妙な大きい紙をみつけ出しましたが、これは決して同じ二枚を大きい紙でもうけようというこんたんではありません。今手紙を書く紙がなくなって
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