て、十月一日から葉書の大きさがなければいけなかったのだそうです。汽車は石炭を運ぶために客車が減ります。お米は大分増収だそうで玄米食が再考究されています。今日は時雨《しぐ》れた天気で今もうそろそろ雨戸を閉める刻限ですが、五位鷺の鳴きながら飛んでゆく声が聞えます。そちらでも聞えたわね。ジャムの「夜の歌」という散文詩が面白く、カロッサの「詩集」では一つ二つ、大戦後の作品でいいのがありました。御覧になるでしょうか。

 十月九日(三)[#「(三)」は縦中横]
 この頃は理屈ぽく物を考える根気がまだないのと、字が書けないのでかかない文句を長く心に書いたり消したりしているのとで、私もどうやら少し詩人めいてきました。カロッサの詩では「生の頌歌」「避難」「未だ生れない者に」等が立派な格調を持っています。詩の句を書きたいと思ったけれども、それはまあ一寸おやめ。カロッサが心理主義にわずらわされてはいるけれども、大戦の後には初期と大違いな作品を書いていることは注目されます。今日という日をこの詩人はどんなに経験しているでしょう。そしてその経験が一生の内に若しもこの詩のように生かされることが出来たらそれは彼の一
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