にたたまれている感想の数々についても推察致します。

 九月十六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

 十六日
 土曜、日曜がはさまったので十一日附のお手紙昨日午後頂きました。昨日の雨は季節の境目のようで、今日は本当に秋らしい日になりましたが、私はいかにも気がきでない一日を送りました。だって私の紺がすりは戸棚に入っているけれど、あなたのお召しになるのがどこにも見付からないという訳で、しかもそちらにあるのかどうかもわからず、ともかく袷羽織とメリヤスの合ズボン下と、銘仙紺がすりを小包にしてどうやら夕飯を食べました。何しろ冬のジャケツを八月の下旬に私とこの字を書く人とで、やっとクリーニングに出した始末ですから。ポカンとしている時間が体にどんなに大切かということは、この頃身に沁みて感じて居り、そちらでお着になるものを順序よく手入すること位が楽しみの程度に周囲が整理されていたらどんなに心持がいいでしょう。眼の検査がすんで風呂にも入れ、もう少し歩けたら、万難を排して国府津へ行き、この冬を過したいと一日千秋の思いです。寿江子が勉強を始めたらピアノの音とレコードとオルガンとで、ああ
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