ってしまっていると云う違いが、面白く感じられました。「カルメン」はメリメの作の方がオペラより数等上ですが、あの音楽はなかなか面白いわね。覚えていらっしゃるでしょう? 貧弱な機械で聴いたけれども。
「娘インディラへ」の著者に触れて、歴史家の内には、原本を持っている人もあるようだと云うことは、読みながらも深く感じたことでした。歴史家の歴史を描き出しようもさまざまですからね。百年たたねば歴史の書けない歴史家もある。また、まず人がどっさり本を書いてくれて、その内で文部省の推選図書になったものをお手本にしなければ書けない人もあり。十四、五の女の子にむかっても、真面目な精神は、真摯《しんし》な物云いをしていることは、読者に感銘深くありました。
 この間うちから、スエコと話している事ですが、心の内に次から次へと湧き起る色々の心持や考えを、一旦言葉に出して、それを人の手で字に写してゆくと云うことは、何と困難な、時にはバツの悪い、しかもいつも云いたいことはとことんの処で云い残されていると云う工合の悪いことでしょう。心の声を自分の声として、自分の耳に聞くと云うことは、沈黙の内で、気持と紙と語りかける相手と
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