ないが、品物だけ揃えて渡すようにお願いしました。こっちも大さわぎで、磁石を探したりウィスキーをみつけたりしましたが、それは又いくらでも用にたつ道がありますから。
 隆治さんの手紙は相変らずあっさりしているけれど、今度は自分でも考えることもあるとみえて、島田のみんなが元気なので安心したということや、顕兄様のことを何卒よろしくとくり返し書かれていて、読む方はおのずから感じることも深う御座います。あとから隊宛に品物を送ることが出来れば、もうしめたもので、それが出来る時は私がやっきになって持たせてやりたいとあせったものも不用となって目出たし目出たしのわけです。忍耐強い子だから根が切れてどうこうということはありませんが、人間の貴重で精緻な体をふっ飛ばす暴力はやり切れません。
 うちでは三日夜寿江子が帰り、五日午後咲枝が腕に赤ん坊を抱いて、湯上りのような顔をして帰宅しました。これで一家の顔が揃い、私は病人に戻ってよいわけですが、泰子を誰がひき受けるかということもきまらず、女中の一人が兄貴にけんかをふっかけさせて引き上げるという次第で、口の先では病人に戻ることを我れも人もやかましく言っているけれど、
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