。この人も泰子も成長の一段階毎にヒキツケてゆかねばならない質です。精神はいつもそういうものですが、この人達は体がそんな風になります。寿江子のは泰子のように口から舌押えの棒をたてる代りに、おそろしい呪いの言葉を発します。こう書いて今日は笑えるから嬉しいわ。これで私もまた一層のんきになって治れます。私がひっくり返って治るまでに、咲枝やおなかの赤チャン、泰子、国男さん、寿江子、みんなが揃いも揃って一つの時期を通って、私の医療につれて何かそれぞれ+《プラス》を得て、国男さんは神経衰弱が治ったりして本当に禍福あざなえる繩ですね。文法書のことは承知致しました。たちばなの本は来ていますから、一緒にお送り致しましょう。
 歯のこともわかりました。市中ではみんな金冠を使っています。一定量だけ各医院に配給されるのだそうです。
 今読んでいるカロッサの小説は本物で、なかなか面白く、一日置きに読んでもらうのが待遠しゅうございます。カロッサが大戦後のドイツの生活のなかから希望と精神の確乎とした人間成長の可能を見出だそうとした熱意が限界を持ちながらも真面目に伝えられています。はじめて小説らしい小説を読んだから、感
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