の「第九」を三人で聴いていると、太郎は大きいテーブルの下にもぐり込んでふとんにくるまり、コーラスの声々を聞きながら半分眠ってみかんを食べていました。大きくなってこんな土曜の夜を思い出したらどんなに懐かしいでしょうね。私はひどく感興を覚え、こっち側からのぞいて「極楽極楽」とほめてやりました。
今日は色々嬉しいのよ。天気がよすぎて私の眼はまくまくで、一入ものがみえないけれど、起きたらお手紙が来ていたし、寿江子からもきていて、あの人も初雪と一緒にやっと峠を越して、同時に宿屋にオルガンのあるのをみつけてすっかり元気をとり戻し、「悪夢からさめたよう」だそうです。一日雪明りの部屋でオルガンをひいて助かった気持になっているらしくて、私にとって今日が一層心のどかな休み日となりました。どうぞあなたもお喜び下さい。あの人もこうやってゆきづまりながらトコトンで何か打開して生きて行くことを学びつつあります。体の調子にひき廻されながらも。どんなに安心したか、御想像下さい。何しろ、何を言われても総毛立つというのだから、私としては自分の食べるチーズでも分けて送ってやるしか手がありませんでした。まあ本当によかったわ
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