たとえば私がこうやって借金暮しの中から、どうして体を直す為の金を出してやるでしょう。私のようにどこにいても、どんな時でも自分の責任に於て、周囲の人の善意を信じて暮すものには、特に病気などした時、寿江子のような心持はどんなに蕭々《しょうしょう》としたものでしょう。治る病気も治りそうにない。この間少し元気をつけるような手紙を書いたら、気に入らなかったらしくておこってきました。普通ならあなたに一度手紙をやっていただきたいのだけれど、何だか今は一寸手がでなくて、折角あなたが書いて下すってもそれがどううつるか、わからないからまたのことにお願い致しましょう。そちらへ行けないのがそろそろ焦立たしくなってきました。庭へまだ楽に出られないのだから、若し乗物に乗ったら必ずひどくなることがわかっていて、やっと辛棒します。誰れも行かなくて全く厭です。そんなことを拘泥していらっしゃらないだろうけれども、私とすれば厭なのよ。
 街の並木の黄葉がきれいだそうです。

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[自注4]ウワバミ元気のこと――「ウワバニン」の注射のために百合子は亢奮状態におかれて結果がよくなかった。そこで「ウワバミ」と
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