ないわ。
寿江子が昨日電話を寄越してあちらは終日雪だそうです。東京は街の黄色い葉を落して強い雨降りでしたが。佐藤先生のところへ手紙を寄越して、色々気持の病的なところを訴えてきたそうです。体はみたところ肥って、陽に焼けてしっかりしたようだそうだけれど、神経がどうこう、気持がどうこうというわけで、そちらの方が難物です。私も気にしているけれど、お医者様への手紙には「うちのものには絶対に言ってくれるな」と念をおしているそうだし、一寸手の下しようがありません。年齢的にもむずかしいのだろうし、何か感情の上へショックを受けたことがあるのではないか、という気もします。率直なようだが、事実は決してそうでないから、苦悩の原因が誰れにもわからない。そういう状態の時、人はすべてを沈黙のうちに自分の力で整理するか、さもなければあけすけに感情の動機までを話して、それによって解放されるか、二つに一つしかないもので、寿江子のように波紋だけを周囲に訴えて、根源をおしかくしているのは困ると思います。東京のものがあの人ににくみ[#「くみ」に「ママ」の注記]をいだいていると感じているらしいが可哀想ね。にくらしいものならば、
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