がひろい空と樫の木に向っていて、大きいタンスやワードローブ、茶ダンス、デスクとぎっしり。デスクの上には『焼入れと焼戻し』というような本がのっています。デスクの前のかべには「ミレーの晩鐘」の蝋刷りと子供をおぶったもんぺの若い母が馬をひっぱってゆく時かの絵がはりつけてあります。そういう住居でおひささんは私が手製の五目ずしがすきと知っているので、わざわざこしらえてくれて居りました。ハイガ米で酢がきかないの。
二時間ほど話してかえりには駅まで送って来て柵の外に立って動くまで見送って居りました。くりかえしよろしくと申して居りました。相変らず情のふかいひと。こういう天然の情のこまやかさと、ごく月並なものの目安とがこんがらかって年を経た後のお久さんを考えると、何といったらいいでしょう。ああ小母ちゃんよ、と思いますね。あなたへのよろしくにしても、そのうちにこめられる心持は、目白時代よりは複雑なのがわかります。彼女も妻の心がわかりかかっているのですものね。そういうところも可愛らしく思われました。結婚式を十二|社《そう》で(新宿の先の)やったのですって。東京での、よ。そのとき私を招《よ》ぼうとしてすっか
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