り仕度していて、お久さんの発議でやめたのですって。来て貰うのも気の毒と。それを話して大笑い。だって急にそんなこと云われても私にはそういう場所にふさわしい黒の裾模様なんというものはもって居りませんものね。矢沢という貸衣裳屋はうちかけまでもっているでしょうけれど、私の身幅はないでしょうから。
蒲田からはなかなか遠いこと。あの辺は水道が大変よくなくてお茶がくそうございます。あんなに戸数がひろがると思わず水圧がひくくて、出ないときがあるのですって。二階だから猶。
池上の方の田圃の中に三|間《ま》の家があって三十六円也、片はじからふさがっているそうです。
この家の二階がね、六畳一つで、スケッチに御覧になったとおりです。ここへ入って来ると、私は机に向うしかないの、ゆとりがなくて。それで余りいやだからもう一つ四畳半がのらないかと思って国男さんに相談したら、五百円でも無理のよし。防火材がなくてはならないから。坪二百円でも駄目では三|間《ま》で36[#「36」は縦中横]、もするわけです。
きのう、道でルーズリーフの手帖を買おうとしたらデパートなんかにはありませんでした。ルーズリーフをつかおうとい
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