入牛乳の欠乏は、お察しのとおり大変こたえます。芳しいオレンジのは、もうずっとなかったのだけれど、菜種の花のは折々あったのです、それもすっかりだから。そのせいか、それとも余り旱天つづきのせいか、全く温泉がなつかしくて。何か生理的にほしいのです。温泉はいいけれども、ちょっとのことに行かなくて。熱川のつちやね、一昨年の二月にいた、あすこ四円だったのが六円になりました。無理もないけれども。
 きのうそちらへ行ったのよ。一昨日の朝、紀《ただし》が無事にかえって来ました。それで林町へ行って、親類が集ったのでおそくなりそうなのでとまってしまい。かえりそちらへよったらお金でしか入らない都合で(物はあるけれど)つまらなかったけれども、とにかく来たしるしに。
 バラやカーネーションは、平凡と思えば平凡ですが、やはり何かを語るところもあって、すべて花はやはり美しいと思います。花をよくよく眺めていれば、なかなか感動的です。
 机の上にフリージアの花があってね、はじめピンと軽く立っていたのが、花が一つ一つひらきはじめたら、その花々の重さで茎が何とも云えないリズムをもって撓《しな》っています。
 白い花弁に一本黄
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