色い暖い色が走っていて、よく見ると深い花底の蕊の下にいかにもしゃれた赤っぽい縞が描かれていて、この一つの花に独特さを与えるこまかい自然の変化にほんとにおどろきます。その花の独特さ、ほかにない調子、それだけにある香り、重み、そういうものをしんから知ってきりはなせないのは、その花の茎であり、花から云えば茎であるというのは何と面白いでしょう。その花にその茎、その組合わせ以外に自然は考えさせもしない、それほど互にそれらしくある。面白いわねえ。美しさというのはこういうところから生れるのだと沁々《しみじみ》思います。
ゆうべは、かえって来た野上さんや何かの歓迎会があってレインボーへ行って、外へ出たら大きい牡丹雪が舞い狂って居りました。バスは前のガラスにその牡丹雪が忽ち白くつくので、折々車掌さんがヘッドの方へ出てはらって又進みます。そんなにして目白まで来て、それからすっかり白い道を一足一足家へたどりつき。夜目に雪の白さは、そこをゆく白い足袋が黒っぽく見えるほどでした。街燈の真下にかえると何か黒い小さい蛾がとびちがっているような影が雪の上をかすめている。そういう景色も面白く。たかちゃん、かえったらす
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