つもったこと。
只さえじっとしていられない雪なのに、このごろの雪故、速達出しに出かけたら、アスファルトの上はこわいこと。すこし雪があって下駄の歯がすべって。雪道を葉の青々と黄色い花をつけた春の菜種の花をもってかえりながら、動坂の三月だったか二月末か、ひどく雪のつもった夜、私は繁治さんと高円寺の方へゆく用があって、あなたに何かの雑誌を買うことをたのまれ、新宿のところで本屋の店を出た途端、すべってころんだことを思い出しました。そのとき繁治さんは手をかしておこしていいのかわるいのか、というむずむずした表情をして傍に立っていました。そんなことを思い出し思い出し歩いて。雪のある朝は陸橋の上から池袋の方を眺めた景色もなかなか絵画的です。東京には雪のないとき、この陸橋の下を屋蓋に白く雪をのせた黒い貨車がつづいて通るときも、何か遙かなる心を動かされて面白うございます。
雪や雨はすきです。風は夏の風、でも微風よりつよいと閉口です。
きょうはこれから『文芸』のつづきをかきます。「真知子」に扱われている世界にふれてかきます。鉄兵の「愛情の問題」にある誤りが「真知子」のなかでも別の形で出て居ります。
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