の中にまるで新しい一つの典型となっているという興味ある歴史の面も浮彫られず、読者の感覚からそのような感受性も喪《うしな》われていたりして。惜しいと思います。今日にあって、勿論、一生懸命さを否定しはしないのですし、一生懸命倒れということも、例えば内面的過程を描いてゆくそのことがとりも直さず最高の歴史的な文学のテーマにこたえていることだと思って、それを自分もひともはっきりつかまず、そういう一体の若さがあって、作品でそういう世界をとらえつつどこまでもアクティヴに生きてゆくという統一が、私などの場合では、自身の未熟さからも出来なかった。そして、いきなり「信吉」のようなものをかこうとして、そして失敗している。そこがなかなか面白いのね。文学の成長の過程は何と各自各様でしょう。一つの大きい動きのなかで、自身の成長の段階をとばさずに踏んで大局のためにプラスとなってゆく、そのように作家を育ててゆくためには、大した経験の蓄積が入用なのね。大人であることが必要なのですね。
 そんなことにつけてよく思い出すのは、万惣の二階のサンドウィッチの話です。あんなに自然にあの味を味った心理というものも面白いことね。私は
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