ったの。
 何しろそういうわけでかえるのが大層おそくて、郵便局がしまってしまって為替来ているのがとれず。あわただしく又出かける仕度しながら、「困っちゃった、かわせのまんまよ、けさの五円はもう小さい小さい紙くずになったし、いやね」と云ってそのまま出て、かえりに更紗のさいふをあけて見たらカワセの紙がないの。おや落したかとすこし遑《あわ》てて見直したらね、小さく畳んだ十円が入っているの。いつの間の仕業でしょう。なかなかいいおかみさんではありませんか。ハハアと感服して、格子入るとすぐ、大いにほめました。「資格があるよ」と云って。しかし、ここに又微苦笑があってね、心ひそかにおもえらく、どうかこの娘も、こんな気のはずみがおこるような御亭主をもたせてやりたいものだ、と。それはそうですものね。やはり対手によりけりですものね。鳴らない楽器はひけない道理ですものね。
 そちらにどんなカーネーションとバラが届きましたろうか。カーネーションの花にも匂いがあるのよ、御存じでしょうか。きのうは花をかえなかったけれども、机の上には、濃紅のバラが二輪あります。半開の手前です。
 おひささんがこの間遊びに来ました。そし
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