れているのでしょうね。
 三田の通りをすこし行って、左へ細い道を折れて行ったら田町の駅の前へ出ました。何と鮮やかにベロアの帽子が思い浮んだでしょう。私がパナマのつばのひろい帽子をすこし斜めにしてかぶって、駅前のこっち側に動いていたとき、ひょっと見たら、反対の側に立って人通りを何となし眺めていらした、あのままの駅前の通りにかーっと残暑の日光が照っています。
 ひろい車道のこっち側に、やっぱり小さいソバ屋があって、支那そばの鉢が浮びます。すべてが異様にまざまざとしています。私はオリーヴ色の傘をかざして、十年昔の光景を通りぬけます。これらすべて何と奇妙でしょう。そして私はふっと考えるの、自分はこんなにさっきのように覚えている、そんな風に果してあなたが覚えていらっしゃるようなことだったのかしら、あなたにとって、と。そう考えると一層異様です。私はほんとに何となしそれから先へ、行くところへ誘いましたね。どうして誘ったのでしょう、どうして何となしいらしたでしょう。
 きょうの漫歩はあつい漫歩であったけれど、そのあついという字にどの字をあてはめたらいいのでしょう。炎天の下に秋の夕暮の靄が湧いて、そのな
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