にゆられて行ったら、四国町という停留場がありました。四国町もやっぱりあっちこっち向いてひろがっているのね。東電について右へ曲ると町並はすっかり裏町めきますね、あのあたりは。更に左へ入ると下うけ工場の小さいのが軒並です。薄暗いところに真黒に油じみた工作場が口をあけていて若いものが陰気に働いています。そこを行ってタバコやを曲ると、町並は一しお細かくなって、こまごました日暮しの匂いを漂わしています。駄菓子ややなんかある。そこを一町ほどゆくと右手にすこし大きい西洋建があって目をひきます。そのとなりに古風な黒板塀の家があって、黒板塀の上から盛りの百日紅《さるすべり》の花がさし出しています。その町すじに黒板塀の家なんかたった一軒、そのお医者さんのところだけです。なかなか一風ある家のたたずまいでしてね。門の上に、ほら昔の東京名所図絵の版画なんかにランプの入る角形の街燈が、鉄の腕で門の上についている風景がありましょう? あのとおり昔ながらの角燈がついていて、そのあたりには医者らしい広告の棒もなければ、電柱の広告もしてないの。医院ともかいてないの。普通の標札だけ出してあって、日よけの簾の二三枚たれたしも
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