九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 八月十九日夜  第五十六信
 いそいそと二階へあがって来てね。随分久しぶりの夜の机です。多賀子、冨美子、恭子、三人づれで夕飯後銀座へ夜店というものを見に出かけました、私はそれから風呂に入って、まだいくらかポッとしてめがねがくもる位の湯上り。
 きょうは三十一度でした。大体この二三日二十九から三十ぐらいだのに、残暑のあつさは格別なこたえようをするのでしょうか。
 あれからずーっと三田へまわりました。四国町に昔西村の祖母が住んでいて、向島のおばあさまと云いならわしていたのが、三田のおばあさまというのは馴染《なじ》まなくて、妙だったのを覚えています。さつまっぱらというところで市電を下りて、歩いて行って左へ入ってそこの二階からは海が見えました。今考えてみれば祖母は一彰さんというあととりとけんかをして、秘蔵娘の住んでいたとなりに小さい家を借りて住んでいたのですね、そしてその婿さんに一文なしにさせられたというわけでしたろう。法学博士でしたからそういうことに通暁している由、よく親族会議からかえっては母がおこっていました。
 そんなこと思い出して市電
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