んなことも思います。人間にも鳥のように、声で唱うしか表現の出来ないような情感もある、と。その声を大抵は胸の中にたたんで暮すのね。人間の胸がもしもアコーディオンであったらどんなに色様々の音を発することでしょう。人間の芸術に音楽があるわけですね。うたう心というものは面白いものですね。うたわんと欲する心も美しい。前奏のメロディーが委曲をつくしてリズムがたかまり、将にデュエットがうたわれようとするときの光彩にあふれた美しさ。全く陸離たる麗やかさ。光漲るなかに何と大きい精神の慰安が在ることでしょう。そういう美しさは涙を浮ばせるものであって、その涙のなかにこころを洗う新しく鮮やかなものがこもっていて。「ああわれは竪琴」という短い詩があります。絃をはられた竪琴が、ああわれは竪琴と、やさしくつよくかき鳴らされることを希っているソネットです。このソネットは目の中に見入り、膝の上に手をおいて、ゆるやかなふしでうたわれるうたですね。一年のうちに一月はユリの詩の月ですから、どうしたって。では、どうぞかぜをおひきにならないように。
一月十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(北京・牌楼の写真絵はがき)〕
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