中で、一度もこんなばけたい話まではしなかったから。ニヤリとなさるだろうと思って。でも、それは私の具象性でしかたがないのでしょう、見たもの、ここにあるもの、見たところで今日あるもの、その三つの点が生々しく関係しあって、そこの街の匂いとともに顔をうって来るのだから、どうもこたえるわけです。「広場」の後篇なのですものね。
お化けなんて可笑しいけれども、先《せん》、盲腸をきったとき、手紙のこと一寸申上げたでしょう、覚えていらっしゃるかしら。「役に立たなくてよかったね」と云っていらした手紙のこと。よく云うでしょう? 自分のごく親愛なものが死ぬとき、そのひとのところへ現れるって。父さえ私のところへはあらわれなかったから、自分のような性質のものは、やっぱりきっとあっさりしちまって迚も挨拶なんかしないだろうし、おばけにもなれそうがない、と思ったのでした。可笑しいでしょう、そして、それは残念だから手紙かいてちゃんと用心していたのだから。ちゃんと化けられる自信がつくまで、手紙はすてられないわ。これは本当よ。
あなたの方の御様子が分らないので、こんな半分のんきそうな(本当はそうではないのだけれど)ことか
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