て、「ひどい風! 御亭主さんどうしているんだろうね」などとも申します。これまで、こんな相手はなかったから。寿江子とは又ちがって。そしてね、これは又一層たべられたさをも誘うわけです。何かすこし家庭らしいのですもの。女中さん相手にばかりくらしていたのとくらべれば。それに多賀ちゃんはなかなか頭が早くて、私が林町に暮せない雰囲気やいろいろもうすっかり理解していますし。面白いでしょう? 私は今のうちの空気、大変味って居ります。何処かに私のしこりをほぐすものがあります。しこりがほぐれて、こまかいいろいろの腱だの筋だのがわかって来るような生活の感情は、やはり面白いし、ああこっていたと今にして思うところもあってね。多賀ちゃんでさえこう感じる、そのことを追って思ってゆけば、私がどんな情景を描くか不要多言で、その心も亦、大変きめのこまかい明暗にとんだものです。すっかりお分りになるでしょう? 私は自分のそういう明暗が、はっきりあなたの中にもてりかえしていて、わかっていると感じているのだから。面白いわねえ。どこもしこらしていないで、四通八達で、深く深くふれてゆくそういう達人になりたいこと、仕事の上で。生活の上
前へ 次へ
全590ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング