た。
何だろうユリは。何故仕事しないでこんなこと喋っているのだろう、とお思いになるでしょうか。でもきょうはそれは仕方がないとおわかりでしょう?
この手紙御覧になる頃は、きっとムと口をしめて机についているでしょうから御安心下さい。ああ、円い大きい着物の小包がつきました。うちは本の置どころがないようです。でもね、これだけはあなたに一杯くわされたといつも呵々大笑するのですけれど、あのビール箱にいくつもの本ね。今不自由しているのよ、あれがパイになってしまったから。鴎外全集なんか、こんどかくものにも入用なのにないでしょう? 近代劇全集がないでしょう? いろんな泰西名著文庫がすっかりなくて、改版がないでしょう。あれが今売らずにあったらほんとに役に立ったのに。あんまりあなたがあっさり仰云るもんで、ふーとその気になったのが間違いのもとでしたね。(但、ここのところ、いく分誇張ある文句ナリ)
あれから家憲が出来たのよ、申しませんでしたね。どんなボロ本も本は売るべからず、というのです。これは宮本家の家憲ですからどうぞ。この頃は古い本の価《ね》が一般にずっと高くなりました。例えば一円八十銭ぐらいの本でさ
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