ません。あっちこっちの戦友の慰問をして旅行する由。あの男も向うきずを太原でうけてどんな人相になっていることやら。この男には実の家族ナシです。林町でもどんな心持でいるかわからなくて(三年のうちに)菓子を送って来るところ、還って来る人の心もいろいろのニュアンスがあるわけですね。はっきりと迎えてくれる顔を描ける人、そうでない人、そうでない人はあっちにいても、こっちへかえるのも出るのも、どっちも可哀そうね。緑郎は音沙汰なし。何か仕事みつけるなら結構です。寿江子すこし糖が出るそうです。やっとすこし勉強はじめたら、すぐね。
「北極飛行」読み終り。いい本というものをよんだうれしさです。たくさんいろんなことが考えられます。仔熊の約束をする子供たちのことその他、この著者は家族というものを、平静な、均等なボリュームで、ちゃんと自分たちの生活のなかに出しているでしょう、私はあの点でもいろいろ感にうたれました。家族というものについての感覚がここでは何とひろく、公然とそして社会的な自信をもって扱われ、存在していることでしょう、私は実に愉快に感じました。ここには生活の日常的の明るさが最も合理的なものの上に立って、
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