そして、しかもそこにある美しさ。やつれながら充実した精神と天真な美しさ。ああ花を買おう、という気持は、そこから発して、一つのつよいメロディーに貫かれているのです。おわかりになるでしょう? 手紙をかかないではいられないところもあるだろうではありませんか。
 こんな手紙は本当にむずかしいこと。心そのままの動きで、咲き立ての花を一枝折って、笑いながらはい、と出して、それで通じるわけあいのものです。
 大変何か話したい心持ですね、話さず或はあなたを横にならしてあげたい心持ですね。
 数時間つづけて後姿や横顔や声やを眺め、ききつづけるということだけでさえ、何かちがった夜をもたらすのだと思います。こうしていると瞬きするのが自分にわかるのに、あの時間の間、いつ瞬きしたのかしらといくら考えても分らないから可笑しいわね。
 私はおでこをぐりぐりぐりと押しつけて心からする挨拶をいたします。

 四月十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 四月十九日  第二十八信
 心持よさそうに疲れていらっしゃったこと。安心いたしました。それにきょうは雨はあがりましたが、割合よい日でしたし。
 私は灯のつい
前へ 次へ
全590ページ中168ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング