ば、花はかすかに芳しい匂いを漂わせます。かえりに新しいいい花買う心持、これは一口に云えない私の感情の溢れた形ですね。そして、私はつくづく夕飯をたべながらも、かえりの道々も思いました、こんな心持についてはあなたにお礼を云わなけりゃいけない、と。コンプリメントのこんな表現のあるのも面白いとお思いになるでしょう? 動作であらわされるいろんな心持――特に今のようなこんな心持、それを字にするのは何とむずかしいでしょう。「御苦労さま」という一句だって動作にしてみれば何とどっさりに表現されるでしょう? ねえ。熱いタオルをしぼってあげるでしょう? 櫛を出してあげるでしょう? 横にならしてあげると思います。そして、おきらいな青茶ではない番茶をあげるでしょうし。それから、それから。ひと言もいらないわ。
 何となく私にはまだ眠っていらっしゃらない気がする。視線のゆくところにあの海棠《かいどう》の鉢がほんのり赤い花びらをもって置かれてあるように思います。
 人間の成長、成熟の美しさということを考えました。はげちょろけの格子の襦袢をパッパッとけだして、相も変らず前のよく合わないような様子で、何と面白いでしょう。
前へ 次へ
全590ページ中167ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング