て来るようです。ヒローたちの自然さ、逞しさと、云いようない優雅さの流れあった姿。そして、真に天真なものの厳粛さも何とあらゆる曲折のうちに充実していることでしょう。
 私は、詩集をくりひろげるごとに、ヒローの優雅な気品への傾倒を深めます。この傾倒の深さ。致命的ね。この感覚の中に生と死とが貫かれています。年毎に、こういう味いが深まってゆくというのは、何としたことでしょう。それほどあの詩は大きい実質なのですね。ね、私はあの詩が好きよ、本当にすき。あなたの手をとってそう云ったら、私は眼へ涙がいっぱいになるでしょう。そのときあなたは何とお答えになるでしょう、絣の着物の袖から手を出しながら、「ああいいよいいよ」、そうおっしゃるでしょうね。その窓の彼方には緑色に塗られた羽目があるでしょうか。
 今は夜で、あたりはごく静か。スタンドが灯り、薄紅の蝶のような蘭の花が飾られている机の上で、山羊のやきものの文鎮に開いた手紙をもたせかけ、僕は明日にはじめて芳しい詩集をひらいて、という句を、じっとよんでいる、この句の調子が、何という音楽を想いおこさせることでしょう。私は泣かないでいることが出来ません、でもそれは
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