シかきました。
一、費用のことについてのお話、よく分っているつもりです。
一、出版年かんのこと、わかりました。
一、第一東京弁護士会「手数料及謝金」左の通りです。
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(一)[#「(一)」は縦中横]刑事々件 区裁判所事件 三十円以上
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同   地方裁判所事件及ビ控訴 百円以上
同   大審院 五十円以上
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(二)[#「(二)」は縦中横]刑事事件ノ謝金ハ左ノ標準ニ依ル。
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(1)[#「(1)」は縦中横]地方裁判所又ハ控訴院事件無罪免訴又ハ公訴棄却トナリタルトキハ三百円以上五千円以下
(2)[#「(2)」は縦中横]執行ユーヨトナリタルトキハ二百円以上三千円以下
  求刑セラレタル体刑ニ対シテ罰金又ハ科料トナリタルトキ亦同ジ
(3)[#「(3)」は縦中横]求刑セラレタル罰金ニシテ科料トナリタル場合ハ百円以上一千円以下
(4)[#「(4)」は縦中横]上告事件 被告自判又ハ事実審理ニヨリ被告人ニ有利ナル判決アリタルトキハ前号ニ従ウ
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(三)[#「(三)」は縦中横]事務所所在地以外ニ出張スル場合
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(1)[#「(1)」は縦中横]旅費 二キロニ付十銭以上一円以下
(2)[#「(2)」は縦中横]日当 一日二十円以上二百円以下
(3)[#「(3)」は縦中横]宿泊料 一泊二十円以上五十円以下
――○――
第二東京弁護士会規則
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 刑事ニ関スル事件ノ手数料及謝金。
(一)[#「(一)」は縦中横] 公判ニ付セラレタル事件
 イ、第一審ガ区裁判所ノ事件五十円以上
 ロ、〃   地方〃  〃  百円以上
(二)[#「(二)」は縦中横] 公判外ノ事件    五十円以上
 謝金ハ依頼者トノ契約ニ依ル
(三)[#「(三)」は縦中横] 出張費
 旅費 五キロニ付 一円以上
 日当 一日ニ付 二十円以上
 宿泊料一泊ニ付 二十円以上
  右ハ総テ出発前ニコレヲ受ク
(四)[#「(四)」は縦中横] 特別ノ事情アル場合ハ本規定ニ拘ラズ依頼者トノ協議ニヨリ手数料謝金等ヲ増減スルコトヲ得
(五)[#「(五)」は縦中横] 手数料及謝金ノ規定ハ「各審毎」ニ之ヲ適用ス
(六)[#「(六)」は縦中横]「上訴審ノ事件」ニシテ前審ニ於テ手数料及謝金ヲ受ケタル場合ハ適宜其額ヲ定ムルコトヲ得
(七)[#「(七)」は縦中横] 手数料ハ事件受任ノ際此ヲ受ク
(八)[#「(八)」は縦中横] 謝金ハ判決言渡、和解又ハ調停ノ成立抛棄、認諾、取下、解任其ノ他事件落着ノ際之ヲ受ク。
  但シ取得額ニヨル謝金ハ其ノ取得アリタル時直ニ之ヲ受ク
(九)[#「(九)」は縦中横]「顧問料」ハ依頼者トノ契約ニ任ズ
(十)[#「(十)」は縦中横] 依頼者ガ手数料、旅費、日当又ハ事件処理ニ必要ナル費用ヲ支払ワザル時ハ事件ニ着手セズ又ハ其ノ処理ヲ中止スルコトヲ得
   ――○――
  規定以上の通りです。
一、大森の方は速達出しましたが、岡林氏へ電話できいた結果すぐ三笠の本六法送りました。三笠の本は新しく買いました。
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 この速達は明朝お手に入ればようございますが。私がお話しするだけでは話しきれないから、重複にはなりませんけれども。
 お大切に。『太陽』の増刊お知らせ下すってありがとうございます。割合にこちらにありますね『解放』のもあるし朝日のもあり、明治大正思想史の中にも役に立つところあり。
 では用事だけをとりいそぎ。

 八月十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 八月十三日  第七十七信
 きのう、随分水がのみたそうでいらしたこと。うち独特ののみかたで、なめらかに、喉に流れこむ、そういうのみかたの水を。御気分いかがでしょう。ようございますか。お疲れになったでしょうね。
 きのうは、神田の本やへまわって思いがけないいい本(仕事用)見つけ出して、それもうれしさの一つに加えて、三省堂へよって、国男さんの誕生日祝の白テブクロ(登山用)を半ダース買い(これはいつも私をのせてくれるお礼です。今は木綿の白テブクロ、やはりないものの一つとなって居りますから)くたびれがどっと体じゅうに出た気持で、いかにも目白迄まわるのが重荷でしたが、エイヤとまわって五時頃林町へかえり。
 うっとりして湯をつかっていたらもうお客。咲枝の兄の夫婦。俊夫、戦地からかえってはじめてなのです、重機関銃で一ヵ年行って居りました。その人たち、私がいるの珍しいので話が弾んで十一時ごろかえったら、咲枝が「ね、百合ちゃん、もし夜なか行くようになったら、すまないが来て頂戴」というわけです。それから私は二階で一眠りしたら、咲枝がすこし亢奮した声で医者に電話かけている声で目がさめました。枕もとの時計を見たら三時。すぐ下りて行ってやったら「アーラ、よくおきてくれたこと、よくねていたらしかったのに」ともう着物着かえています、私もいそいで身仕度して千鳥の自動車(うちのは工場へやってあるので、今夜はたのむとタクシーに特約してあったの)で青山六丁目の沢崎という医者のところへゆきました。三時半と四時の間に着。それからきものかえて、咲産室に入ったのが三十分ほど後で、五時十五分前に私は「ではお二階でお待ち下さい」と云われました。室で、籐椅子二つつないで脚をのばし、半ば眠りながら十二日の朝のこと思っていたら、下で急に赤坊のいかにも威勢のいい声がしました。よその赤坊と思って二声、三声きいていたが、下に室はないこと思い出し、いそいで階段口へ行きかかったら、バタバタ下から駈けのぼって来た看護婦が「御安産でございますよ、お嬢さまでございます、お二人ともお元気」と云ってものをとりに行きました。「ああよかった!」思わず声に出して「何てよかったんだろう! 本当によかった!」そういって電話室に入り、国男呼ぶのが[#「が」に「ママ」の注記]なかなか出ない。ブズーブズー、二十分もして出ました。生れたこと云うと、妙な咳して「よかったね」と云っている。折から赤坊又泣き出したので、電話室のドアあけて「きこえるだろ、あの声がそうよ」ときかせてやったら、又咳払いのようなことして「ああ。ああ。」と云っている。そういう風になるのね。五時二十分に生れました。ですから陣痛が高まってから三十五分ぐらい。家を出てから二時間余。あやういことでした。自動車の予約がなかったら大あわてのところ。「百合ちゃん来てくれて、よかったよかった」と云い、しばらく手をにぎって話していてかえりました。それが七時。お産の間の時間は何と経つのが早いでしょう! びっくりしました。仕事している夜とお産とは、早く夜が経つこと。
 私たちの祝福が、特別きのうは咲枝にまできいたのかもしれないと、ひとり思ってうれし笑いいたしました。七時ではこの頃円タクなし。タクシーをやとってかえって来て、玉子二つたべて十二時まで熟睡しました。どうかあなたも御安心下さい。よかったわね。これは本当の安産でした。可愛い女の子よ。家のしるしで、やっぱりくっきりと[#図13、唇の絵]こういう山形の上唇をして。体重は七百六十匁。すこし軽めです。けれども実に張りきった声で音吐朗々と啼《な》き、男の子のような勢です。可愛いこと! 小さい小さい顔よ。鼻の頭すこし擦れて、短時間に生れたから楽でね、息づかいも柔らかに赤いふとんかけている。夜あけの町の物音、つゆにぬれているプラタナスの葉っぱの色。自動車ひろいに出たらまだ閉っている店の前に咲いていた一輪の朝顔、みんな新鮮で。何だかすこし涙っぽいような心持でした。太郎のときはこの味知りません。上落合の家で、父が「オトコノコアンザン」と電報くれただけだったから。はじめて父親になったひと小説かきたくなるわけね。平凡事ながらやはり決して平凡ではありません。二人でこの赤ん坊見たいと思いました。又いまにあっこおばちゃんのおじちゃんに御対面ねがいます、私が抱いて行くわ。あなたにもはじめての姪ですね。
 午後から国男、アボチン改称お兄ちゃん同伴、初対面に出かけます。島田からもおきき下すっていますから御通知いたしましょう。克ちゃんの御良人、十日に岡山へ応召した由、ふと克ちゃん、もしやお母さんになるのではなかろうかと思ったりしました。
 今池田さんから電話。お役所の用で来て、十五日ごろまでいる由です。
 きのう、本をひっくりかえしていたら「化粧」という詩が目につきました。ごく簡素な清潔な感覚で、女が自分の愛するものにふれられたところを、湯上りに特別の愛着で、ゆっくりと自分たちの情愛への心をこめて、化粧する。そういう詩です。ソネットね。なかなか趣深うございました。
 速達(十一日)もう御覧になったでしょう。九年度年かんと一緒の『メチニコフ伝』はいつぞや『ミケルアンジェロ』をくれた人が、あなたへとわざわざ合本してくれたものです。どんな本かしら。こんなものをユリにかかせたいと思いになるものかしら。私はよんで居りませんが。どうもこの奥さん、自分の気持にだけ入って書いているのではないかと思いましたが。献詞を見て。親愛なる彼[#「彼」に傍点]とは妙だわ。では呉々お大切に。

 八月十七日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 八月十七日夜  第七十八信
 きょうは大変長時間で、うちへかえって来たのが七時でした、タクシーにのってその時間。六時半まであちらでした、九時から。さて、きょうは十日づけのお手紙(十五日着)とけさ頂いた十五日づけの分と二つへの返事をかく次第です。
 例によって私の事務的処理の鈍さについて。こちら独自の弱音器をかけぬようにとのことは、十分気をつけます。わかりましたと、只ここにいくら書いてもはじまりませんものね。云いわけも致しません。私はどうでもいいと思っているのではなく、出来るだけ即日即決の心持でやっているのだから、そのプリンシプルで一層向上が必要ということはよくわかりますし、又現実には今度のペンギンみたいな失敗をして、ある意味では百ジンの功を一|簣《き》に欠いているようなところもおこるのですものね。私はこの頃、心に僻《ひが》んでいるところがないから、くよくよしないでお小言を受けます。あなたが「仕様がないじゃないか」と仰云れば「だけれど」とは云わず、御免なさいねという心持です。(御免なさいね、ですむと思っては居りませんから御安心下さい)
『医典』については申しました通りです。紙が不足故月末迄の予定がすこしおくれるということも、覚えていらっしゃるでしょう? 南江堂へ予約しておきました。
 就床成績乙下は当って居りますね。ここにいて乙下は未曾有です。書評について。それから題について。堅実簡明の趣味のことは全くその通りです。本質的なものの見かたのことについて云われていること、本当であると思いました。性質というようなものの範囲で云っていたのではなかったのです、私にしろ。やはり現実へ向う態度というものについて感じていて、それで書いていたところあるのです。ですから云われていることも至極ピッタリとした次第です。やっぱりお嬢さん性であるという風に感じていたのです。卑俗な意味での世故というものに対比しての、低い意味からではなく、ね。
 時期のことなどもわかりました、御相談いたします。十月十七日までの完了をフイにしないということは大いに心にかけて居ります。この読書の完了を本年の十月十七日にするということは、私にとって決して何でもないことではない心持なのです、去年だって同じというのではなく。ね。
 夏の庭のスケッチ。景色目に見えるようでしょう? 小草にかかる泉のしぶきの眺めなど。
 けさのお手紙。第一註文でオールライトとなるようだと、と云っていらっしゃるお気持、そのスーッと工合がわかるようで何とも申しようなし
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