うのだから。いろいろ臥ていた間にもそういうことを考えていて、自身の脱皮について、自身へのきびしさについて考えていたところへかえって来て「はたらく一家」直の小説をよんで、粛然としてしまった。自分など、稲ちゃんなど、本当に沈潜して真面目に真面目に沈潜してめのつんだ小説をかかなければならないと思って。何年かの間絶えず一作家の低下力となっていたものが勝利を占めて、作品のかげで悪魔的舌を突出しているのに、身についているとか何とかで、人間も四十になって云々とか自得しているのは、もう箇人的な好悪を絶しています。こと終れり的です。
 芸術家、人間の成長の過程における正負というものは、極めて複雑でダイナミックであり、私はそのことについてもいろいろ自分の生活から発見します。正負の健全な掌握ということには、精神力の、運動神経の溌溂さが大事ですからね。自分たちの生活がいいものでなければならないと思うことと、いいものであるということとは別であるし、同時に、エッセンスに漬けた標本みたいないい生活なんてあるものではないのだし。なかなか興味深いところです。考えて見れば去年は苦しい一年でしたが、本気で暮したおかげで、私
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