の皮はどこか一ところにしろピリといって、今はたのしみなところがある。いつからか文学の仕事にふれて、私はよくもう一歩のところが云々と云っていたでしょう? 二年ぐらい前から。覚えていらっしゃるでしょうか。本能のようなものが、おぼろげに何か感じていたのですね、考えて見れば。角度が(掘り下げてゆく)その頃つかめなかった。前へ前へそういう風だった。前へではなくて沈潜の方向が必要であったわけでした。生活の内容に文学上の技術が追いつかないように感じてそのことを手紙でかいたこともありましたが、ああいうのは、やはり正当に見ていませんでしたね。文学的技術は完全ではないが、そう片言でもないので、生活の内容を金《かな》しきとすれば、正しい力の平均でしっかり鎚がうちおろされていなかったからであると思う。ユリにもう一押しというところが欠けているように思われるが、というあなたの言葉は一度ならず云われていて、その都度そのときの理解一杯のところでは考えていたが、それも今にしてわかった、というところがあります。人間の成長は何とジリジリでしょう。そしてリアリスティックでしょう。
きょうは曇りました。火鉢なしでこれをかいて
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